地域のコミュニティを分断するHistorical Eventsをめぐる騒動 - 何のためのモニュメントか


CRC(Community Relations Commission) for Multicaltural NSW (以下CRC)のHistorical Eventsに関する騒動:エスニックグループ間の思惑がぶつかった。

AJCNは他のエスニックグループとの連携も模索し、働きかけてきました。そしてNSW州の政府機関で多文化社会、移民社会のいろいろな問題点の解決を担当するCRCに対しても、慰安婦像のような移民の母国間での政治問題をオーストラリアの持ち込むべきではない、まずコミュニティのハーモニーを第一に考えるべきと訴えてきました。たまたま我々の趣旨に賛同してきたトルコ系のグループとともに、銅像やモニュメントについてはガイドラインのようなものを作って、エスニックグループ間の無用の摩擦を避けるためのreferenceにしてはどうかと提案したところ、1月29日にCRCからガイドライン制定の連絡が飛び込んできました。その内容はしごくまっとうなものに思えました。

しかし2月13日に心外だが撤回せざるを得なくなったとの連絡が入り、事情を調査したところ、2月16日のシドニー・モーニング・ヘラルド(SMH)の記事でそのわけがわかりました。CRCのトップが6つのエスニックグループにねじ込まれ、辞任を要求されていたのです。そのグループとは韓人会、アッシリア系、ギリシャ系2団体、キプロス系それにアルメニア系です。州政府の担当大臣Victor Dominelloは大慌てで、CRCトップの辞任は拒否しましたが、ガイドラインの撤回を命じました。SMHの第1報は戦争の残虐行為をごまかすことは許さないという論調で、慰安婦の件も20万人のsex slavesと決め付けた内容になっています。同日2報目はトルコ系からの反撃の主張が載せられ、トルコ系対反トルコ系の論争になっています。
2月20日にSMHがこの問題のまとめの記事を出すというので、AJCNから英文のStatementとFactに基づく資料を大量に送り公正な記事とするよう依頼しました。その結果書かれた記事が以下です。

(Brisbane Times = Sydney Morning Herald)
http://m.brisbanetimes.com.au/nsw/monuments-to-brutal-truth-or-to-racial-disharmony-hard-questions-for-multicultural-nsw-20150220-13iv6s.html

SMHは、この記事を含めそれまでの記事の中に肝心のガイドラインの具体的な内容については一切書かず、ガイドラインの設定に際し、より多くのエスニックグループの意見を聴かないのはコミュニティを分断することだというアルメニア、ギリシャ系の団体の意見をそのまま載せていましたが、この記事では少し中立の方向に引き戻すことができました。ガイドラインの内容は以下の通りです。このようなガイドラインに沿ってモニュメント設置を考慮するほうが、摩擦を減らせると思うのですが、皆さんの判断はいかがでしょうか。

今回のどたばたの原因は100年前にオスマントルコにいじめられたアルメニア、ギリシャ系、キプロス系の恨みから来ています。日本人には思いもよらない執念深さで、母国での恨みを持ち込んでこれからも相手を非難するためのモニュメントを建て続けるのでしょう。(アッシリア人虐殺碑の写真参照、反対派のペンキでの非難が書き込まれています) 
1973年から1984年にかけて、一部のアルメニア人過激派はアルメニア人ジェノサイド認知の手段として世界中でテロ活動を展開。このテロは当初はトルコに対する武力報復で主にトルコ人に対する個人攻撃でした。1973年から10年間にトルコ人外交官や政治家が34人暗殺されています。80年代にはトルコの外交官がシドニーの公邸前で暗殺されています。1982年から個人攻撃から無差別攻撃に変わり、対象もフランス政府やソビエト政府へ拡大されました。その後アルメニア系コミュニティはテロによる認知から、政府や市町村レベルに対する陳情、記念碑の設置、デモなどによる市民レベルへの働きかけに方針を変更し現在に至っています。今回、CRCに抗議した団体は、自分たちが建てたいモニュメントを建てたい人たちといえるでしょう。

AJCNは歴史的モニュメントは、相手側との和解までを目指すべきものだと思いますし、基本的には豪州の歴史に直接関連したものであるべきと考えます。実際にカウンセルのポリシーはそのように書かれています。しかし今回の州政府を巻き込む騒動で、像、碑一つでコミュニティが割れてしまう、すなわち、多文化融合主義が危機に瀕する、という現実を豪州人も記憶に留めたことでしょう。

Vandalised: The Assyrian Genocide Memorial at Bonnyrigg



















Guideline on the recognition of historical events
prepared by CRC in Feb,2015

In determining whether to support recognition of a historical event,local and state government authorities should:

1. Respect the right of all individuals to freely express their opinion within the boundaries of Australian laws.

2. Acknowledge the range of views that may exist about historical events.

3. Acknowledge and be sensitive to experiences of trauma or suffering associated with historical events.

4. Recognise that all individuals in NSW should demonstrate a unified commitment to Australia and the importance of shared values, governed by the rule of law, within a democratic framework.

5. Consult as broadly as possible solution where possible.

6. Seek a mutually agreeable solution where possible.

7. Consider the impact od the decision on community harmony locally and more widely.

8. Ensure that the decision does not contribute to the victimisation of any individual or cultute,religious,or linguistic group.

9. Consider whether the decision is consistent with Australia's foreign policy positions, as determined by the Commonwealth Government.




慰安婦像問題に関するオーストラリア ジャパン コミュニティ ネットワーク(AJCN)からのご報告


1.ストラスフィールド市慰安婦像設置問題、事態は膠着状態から流動し始めた。

 昨年4月1日のストラスフィールド市のタウンホールで開かれた慰安婦像設置問題に関する公聴会で、州政府、連邦政府の意見を聴いて判断する、それまで決定を保留するとの判断が下されました。この日に反日中韓団体から出された署名と請願書に対し、AJCN(Australia - Japan Community Network) も反対の意志を示すべく、署名活動を5月初旬からスタート。
日本人だけでなく在豪の白人、アジア人、韓国人、中国人など人種の枠を超えて3,408名の手書き署名を集め、6月7日に市側に提出しました。
 その後 AJCNはトニー・アボット首相はじめ7名の連邦政府、州政府の要人宛てに、慰安婦像問題の根深さを知らせるとともに、日豪友好のため善処してもらいたいとの手紙を送付したり、市議会議員と定期的に面談するなど地道な活動を進めてきました。

 膠着状態は11月まで続きましたが、12月はじめに韓人会会長が業を煮やして、慰安婦像設置再推進をぶちあげ、9月に新たに市長に就任したジュリアン・バカリ市長に早く具体化するよう圧力をかけはじめたことにより破れ始めました。ちなみにバカリ市長は慰安婦像設置を言い出した韓国系サン・オク議員(元副市長)と同じ保守系のLiberal所属。どちらかといえば、中韓に同情的で、中間的な解決策を模索すると公言しています。
Liberal 3名、Labor 2名、無所属(Independent) 2名の構成で、市長がキャスティングボートを持つため、我々反対派にとっては票数では不利な状況になっています。Liberalでも連邦政府レベルは日豪との友好を優先、ストラスフィールド市レベルは中韓の政治力に配慮せざるを得ないということで、慰安婦像問題についてはねじれた関係になっています。(トニー・アボット首相は昨年5月訪日時、朝日新聞のインタビューの中で慰安婦は過去の問題と切り捨てています。)


2.予断許さぬ状況へ

 3月3日のストラスフィールド市議会で、既に1年がたつ慰安婦像設置問題に決着をつけるべきとの発議が慰安婦像反対派無所属議員から出されましたが、市長はじめとするLiberal所属議員3名と無所属議員1名の反対で否決されました。否決に回った4名はワークショップを開き、もう少し時間をかけて検討することが必要との意見ですが、バカリ市長が目指す双方にとって良い着地点を探すことは不可能であり、市議会の苦悩が見て取れます。
連邦政府、州政府要人の意見は全て市に返っており、今までの賛成・反対の署名、各界からの意見の手紙などを分析したレポートも2014年中にまとめられていますが、中韓の政治力に配慮して、依然として迷っていることが明らかです。

 しかし4月中に投票で決着といううわさもあり、日本人にとって予断を許さない切迫した状況になりつつあります。市議会が公開性になった場合は、シドニーの日本人の皆様にはぜひストラスフィールド市に来ていただき、おとなしい日本人も意思表示を行うことができることを示していただきたいと思います。AJCNからの召集についてはCheersや日豪プレスなどのメディアばかりではなく、シドニーの人的ネットワークを通じてもお知らせいたします。



(お知らせ)
AJCNは2月25日付でJCN(Japan Community Network)からAustralia - Japan Community Network(AJCN)に組織名を変更しました。JCNは、日系人のみならず、良識ある豪州人や欧米人を交えた混成チームであり、幅広くコミュニティの融和を訴える市民団体で、日系人だけの視点では活動していません。そのことを正しく反映するために、Australia - Japan Community Network に改名することといたしました。




2月25日付でJCNの組織名をJapan Community Network (JCN)からAustralia-Japan Community Network(AJCN) に変更いたしました。


JCNは日系住民のみならず、オーストラリア人も参加する混成チームで、人種の枠を超えた、幅広いコミュニティの融和と平和を実現すべく活動しています。JCNが対外的に発信する文章はそのことを如実に反映しており、その実態に即した名称とすべく、Japan Community Networkから、Australia-Japan Community Networkに名称を変更することに致しました。